滝川クリステルさん インタビュー

前編 「ペットビジネスの裏にある、動物殺処分の現実を知ってほしい」
後編「シェルターで犬1匹を引き取るのは、犬2匹を助けることでもある」



※DRESS(p-dress.jp)に掲載されていた2つの記事を1ページにまとめてあります。

2014年、動物福祉、生物多様性保全を目的とした一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを立ち上げた滝川クリステルさん。 「犬猫の殺処分や放棄、また虐待をゼロにすること」を目指す活動を始めたきっかけと活動の内容など2回にわたってインタビューをさせていただきました。

前編

「ペットビジネスの裏にある、動物殺処分の現実を知ってほしい」

ーーまず、現在の財団の活動の前に、滝川さんは犬猫の殺処分の現場について報道されていますが、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

『ニュースJAPAN』(フジテレビ系)のメインキャスターをしていた2005年頃のことでしょうか、当時は報道センターで資料に目を通すのが日課でした。 あるときそこで、1冊の雑誌の表紙に引きつけられたのです。 それは6匹ほどのレスキューした犬を連れて満面の笑みを浮かべる女性で、犬を保護するシェルターのオーナーだとありました。

シェルター? 何のための? と調べると、当時は年間30万匹以上もの数の犬猫が殺処分にあっているということがわかったのです。 この現実に衝撃を受け、大量生産・大量消費という社会の裏側で起こっているこのような事実が、世間には見えていない、そして自分も見ようとしていなかったことに、何とかしなければと思ったのが最初です。

まず、自分にできるのは、テレビというメディアを通して多くの人に知ってもらうことだと考え、表紙に掲載されていた女性の運営シェルターなどを紹介しながら取材を重ね、番組を卒業する直前の2009年、3夜連続で『時代のカルテ 命の現場』として報道したのです。


犬猫殺処分のリアルな報道はテレビ初だった

ーー『ニュースJAPAN』の報道は、大きな反響があったと思いますが、ご苦労もありましたか。

この『ニュースJAPAN』での殺処分の現場の報道については、かなりの苦労を伴いました。 処分をする保健所の方もしたくてやっているわけではないのに、批判の矢面に立たされる可能性がありますから。 ペットビジネスが抱える問題や飼い主のモラルの改善に役立つならと協力していただけるところがなんとか1カ所だけあってできたことだったんです。

C型肝炎のスクープなどで知られる敏腕の番組ディレクターを説得し、徹底して掘り下げた取材で痛ましい殺処分の映像を流したのはテレビでは初のことでした。

殺処分のときに犬や猫が入れられる箱は「ドリームボックス」と呼ばれているんです。 しかし、彼らは夢を見ることもなく、二酸化炭素を注入されて苦しんで死んでいきます。 それは目を背けたくなるような映像でもあり、批判も覚悟の上でしたが、放映直後から多くのメールが寄せられ、その8割は「こんな現実は知らなかった。よく見せてくれた」という肯定的なご意見でした。 結果的にC型肝炎の報道に次ぐ大きな反響となったんです。


諸外国と比べ、動物愛護・保護で遅れを取る日本

ーー財団の運営は報道とは異なる大変さがあると思います。 どのように財団の立ち上げに至ったのですか。

報道を通して、テレビに出ることや自分自身の発信力をあらためて知りました。 それから2011年に東北大震災の被災犬であるアリスを引き取ることは、さらにこの問題を身近に考えることになりました。

photo by Kazumi Kurigami

その後、2013年に五輪・パラリンピック開催地招致のスピーチに立ち、日本のアピールをしたわけですが、日本は欧米諸国に比べて、動物保護の観点では遅れています。 たとえば、最初に私が出会ったシェルターを日本で創立されたのもイギリス人女性でしたし、ヨーロッパの中にはイギリスやドイツのように犬猫の生体販売(ペットショップ)を禁止している国もあります。

2020年の東京開催が決まり、プレゼンテーションを通じて注目されたことで、「伝える力」が使えるという時期であること、2020年までに日本も殺処分ゼロにという目標を持とうと思ったこと、そして財団の立ち上げをサポートしてくださる方々との出会いがあり、2014年5月に一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブル(CHRISTEL VIE ENSEMBLE)を立ち上げました。

財団の活動は、2020年を目標に犬猫の殺処分ゼロ、放棄ゼロ、虐待ゼロのためのProject Zero」という活動と、レッドリスト(作成:IUCN 国際自然保護連合)という絶滅危惧種の野生動物を救い、生態系を守るための「Project Red」という活動の2本柱です。

財団名の中の“ヴィ・アンサンブルVIE ENSEMBLE”は、フランス語で「ともに人生を歩む」「一緒の命」という意味で、同じ価値の命がお互いに支え合い、共存・共生する社会を目指します。 同じゴールを目指していただける方を広く募って、活動をしています。


文: 小野アムスデン道子 DORESS(p-dress.jp)2016.04.07 掲載
https://p-dress.jp/articles/1638





1冊の取材資料から知ることになった犬猫の殺処分。 メディアを通してその命の現場を伝えつつ、一般財団法人クリステル・ヴィ・アンサンブルを立ち上げて動物福祉、生物多様性保全のために活動する滝川クリステルさん。 財団立ち上げに至った経緯、具体的な活動内容やその重要性、誰でも参加できるサポートについて伺いました。

後編

「シェルターで犬1匹を引き取るのは、犬2匹を助けることでもある」

「命の花プロジェクト」へ取り組む滝川クリステルさん

ーー前編でもお聞きしましたが、再度、犬猫の殺処分の報道から財団立ち上げを振り返ってみて、どんな道のりでしたか。

犬猫の殺処分の現場を『時代のカルテ 命の現場』として、『ニュースJAPAN』(フジテレビ系)の放映に対する大きな反響で、この問題に対する関心に手応えを感じました。 また、縁あって、東北大震災の被災犬アリス引き取った当時、数多くのインタビューを受ける中で、これはその背後にある様々な問題に気づいてもらうよいきっかけにもなり、自分のやりたいことがだんだん現実となって近づいてきたようだな、とも思いました。

さらに2013年、五輪・パラリンピック開催地招致のスピーチで大きな注目を浴びたことで、問題の解決に向けて動くのはまさにこのタイミングだろうと思い、財団の設立に向けた動きを加速させました。

財団の立ち上げはもちろんですが、実際に活動を続けるのはそれ以上に大変です。 賛否両論がありましたし、私たち運営側でそのような声に日々葛藤することもあります。


まず「現実」を知ってほしい

ーー具体的な財団ではどのような活動をされていますか。

財団の活動の中心は、まず2020年を目標に、犬猫の殺処分ゼロ、放棄ゼロ、虐待行為ゼロを目指している「Project Zero」です。 2013年の環境省の調査では、先進国といわれる日本で、1年間に全国で161,867頭もの犬や猫が殺処分されて、数十億円の税金が使われているという状況。

この「Project Zero」の活動では、とにかく数が不足しているフォスター(保護犬猫の一時預かり)の養成講座を行っています。 また「フォスター」のネットワーク化を支援する「フォスター連携支援」の活動も広げていきたいと思っています。

そして最も力を入れているのは「啓蒙活動」です。 少しずつ意識は変わってきているとは思いますが、現実としては、諸外国に比べて異常なぐらいの殺処分の頭数ですし、法整備にもまだ至っていません。 もっと現実を知ってもらって、その先、どうするべきかを考えられるような啓蒙をしていきたいのです。

小学校をはじめ、様々な場所での講演のほか、「WELCOME PET CAMPAIGN」という保護犬保護猫との暮らしを楽しむためのハンドブックを公益社団法人日本動物病院協会ほかと共につくって、動物病院に配布しています。 また、青森県の高校生たちが、殺処分された犬や猫の骨を保健所から譲り受けて手作業で細かく砕いて花の肥料にしている「命の花プロジェクト」を東京・恵比寿で行なったイベントで紹介したりもしました。

「命の花」を持つ滝川クリステル


寄付以外にも、活動にかかわる方法はいろいろ

ーー財団の活動に賛同して支援をするとしたらどんな方法がありますか。

財団を運営するにあたっては、費用も人手も足りているとは言えません。 この活動に関心を持っていただければ、もちろんご寄付をいただくというサポートもありますが、フォスターになるための基本的な知識を得るプログラム「フォスターアカデミー」に参加いただいて、フォスターを目指していただくという手もあります。 保護犬の場合、脱走してしまうこともよくあって、単に飼うより難しい面もありますから。

また、より手軽な方法としては、オリジナルのチャリティーアクセサリー(Everchris for Animals)や財団オリジナルグッズを伊勢丹オンラインストアなどで購入いただく、というものがあります。 制作経費を除いた売上は「Project Zero」ともう一つ絶滅危惧種となっている野生動物の保全活動をサポートする「Project Red」などの財団の活動・運営に使わせていただきます。 この「Project Red」は、規模の大きな問題でもあり、長年のテーマとして取り組んでいきたいと思っています。

オリジナルのチャリティーアクセサリー

一方で「Project Zero」では、2020年殺処分ゼロの目標を掲げて進めていきたいと思います。 保護施設であるシェルターから私たちが犬を1匹、引き取るということは、シェルターに1匹分の空きスペースができるので、他の新たな1匹を保護できます。 これは自分が引き取る犬と他の保護犬と2匹の犬を助けるということにつながりますよね。 ペットショップで1匹買うというのとは、大きく意味合いが違います。

そんな気づきをもっと広げて、2020年に向けて活動していきたいと思います。


文: 小野アムスデン道子 DORESS(p-dress.jp)2016.04.11 掲載
https://p-dress.jp/articles/1639



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初版 2023.04.22